パソコン版ドライブが届かない範囲
パソコン版 Google ドライブは、想定された用途では十分よくできています。ドライブの中身をローカルのフォルダとして見せ、Google 独自のドキュメント形式を理解し、競合の処理も無難です。それで足りているなら、乗り換える理由はありません。
別の手段を探すことになる理由は、だいたい 3 つに絞られます。
まず Linux 版が存在しないこと。限定版もコミュニティ版もなく、公式に用意される気配もありません。次にマウント方法がストリーミングかミラーリングかの二択で、ノート PC の SSD と素材置き場のアーカイブに同じ設定を当てるのは無理があります。そしてアカウント。仕事用、個人用、取引先との共有アカウントと増えるたびに、マウント先も設定も別々に増えていきます。
ローカル WebDAV 経由で Google ドライブをネットワークドライブとしてマウントする
発想を変えて、ファイルシステムドライバを入れる代わりに、自分のマシンで小さな WebDAV サーバーを動かし、それを OS 側からマウントします。AnyStorage はこの方式です。カーネル拡張も macFUSE も WinFsp も不要、管理者パスワードも設定ファイルもいりません。
マウントまでの流れは次のとおりです。
- AnyStorage で Google Drive 接続を追加し、OAuth 認証をアプリ内で完了させます。
- その接続を一度開いて、接続済みの状態にします。
- サイドバーの「サービス」から WebDAV タブに切り替え、開始を押します。既定のアドレスは http://127.0.0.1:3211 で、ポートが埋まっていれば変更できます。
- 同じ画面でユーザー名とパスワードをコピーします。ユーザー名の既定値は anystorage、パスワードは初回に自動生成される 24 文字のランダム文字列。HTTP Basic 認証は常時有効で、無効化はできません。
- macOS は Finder の「移動」から「サーバへ接続」(Cmd+K)を開き、URL を貼り付けて登録ユーザーとしてログインします。
- Windows はエクスプローラーの PC から「ネットワーク ドライブの割り当て」を選び、同じ URL を貼り付けます。
- 「サインイン時に再接続する」にチェックを入れておけば毎回同じドライブ文字で開けます。AnyStorage 側のサーバーがまだ起動していないタイミングで再接続が走ると失敗するので、その場合は開き直してください。
Windows については注意書きではなく本文で書いておきます。2026 年時点で標準の WebClient サービスは非推奨扱いで、多くの環境では動いていません。割り当ての前に services.msc から起動してください。さらに HTTP 上の Basic 認証は既定で拒否されるため、レジストリの HKLM\SYSTEM\CurrentControlSet\Services\WebClient\Parameters にある BasicAuthLevel を 2 にしてサービスを再起動する必要があります。放置すると「入力されたフォルダーは有効ではないようです」やシステム エラー 67 が返ってくるだけです。FileSizeLimitInBytes の既定値は 50,000,000 バイトなので、90 MB の動画でも 0x800700DF で失敗します。上限は 4294967295 まで引き上げられます。サードパーティの WebDAV クライアントを使えばこの 3 つは回避でき、大きいファイルは AnyStorage 本体で転送しても同じことです。
複数アカウントを 1 台のドライブに
Google アカウントごとに接続を作ると、それぞれが接続名のフォルダとして WebDAV のルートに並びます。マウントは 1 回、中に 3 つのドライブアカウント。その隣に Synology や QNAP の NAS が公開している WebDAV、S3 バケット、SFTP サーバー、ローカルフォルダを置くこともできます。対応する接続タイプは 20 種類です。
隠さずに書いておきたい仕様がひとつ。アプリを再起動した後は、その接続をアプリ内で一度開くまで WebDAV のルートには現れません。接続が遅延して確立されるためです。あとから追加した接続は、サーバーを再起動しなくても表示されます。
マウントしない使い方:ドライブを 1 つの接続として扱う
マウントは任意です。アプリ自体が Google ドライブのデスクトップクライアントとして使えます。ドライブのフォルダを S3 バケットやローカルのプロジェクトフォルダ、SFTP のホストと並べてタブで開き、ファイルの移動は進捗と履歴が残る転送画面で行えます。いったんダウンロードして上げ直す必要はありません。納品物はドライブ、書き出しはバケットという案件では、ブラウザのタブと別のツール 2 つではなく 1 つのウインドウで済みます。OAuth のトークンと認証情報はローカルに暗号化して保存され、無料版でも接続 2 つまで商用利用できます。
Linux での話
差が最もはっきり出るのがこの環境です。AnyStorage は Ubuntu 20.04 以降向けに AppImage と deb を配布していて、WebDAV の手順は他の OS とまったく同じ。サーバーを起動し、ファイルマネージャーから接続します。GNOME Files なら「他の場所」で dav://127.0.0.1:3211、Dolphin なら webdav://127.0.0.1:3211 を指定すると、同じ資格情報を聞かれます。読み取りは HTTP range のストリーミングなので、mpv で動画のシークバーを動かしても全体をダウンロードしません。
できないこと
オフライン同期の代わりにはなりません。先読みは一切せず、必要になった時点で取りに行く方式です。機内でマウント先を開いても、開けないファイル名が並ぶだけ。その用途には同期クライアントか、事前のダウンロードが正解です。
Google 独自のドキュメント形式はドライブの中で通常のファイルとして存在していないので、その編集はブラウザに任せてください。
無料版では WebDAV サーバーは読み取り専用です。閲覧、再生、外部へのコピーは問題なく、書き戻しには Pro ライセンスとフルコントロール設定が必要になります。逆に、会社の共有ドライブをマウントする場面では、Pro でもあえて読み取り専用のままにしておく運用が安全です。
接続フォルダ同士は直結していません。マウント内で Google ドライブのフォルダから S3 のフォルダへ直接ドラッグしても通りませんし、ルート直下の接続フォルダ自体を WebDAV 経由で名前変更したり削除したりもできません。ストレージ間の移動はアプリの転送画面か、いったんローカルに落とす経路になります。
TLS はありません。URL は平文の http、認証は HTTP Basic。だからこそ既定では 127.0.0.1 にのみバインドしています。0.0.0.0 にバインドする LAN モードもありますが、資格情報が平文でネットワークを流れるため、アプリ側で明確に警告を出しています。ファイルロックもないので、2 台のマシンから同じファイルを編集した結果は保証されません。
再起動も、署名付きドライバも、Apple Silicon のセキュリティ低減起動も必要ない構成です。合わないと感じたらサーバーを停止するだけで、マウントは消えます。